乃木希典 入門

乃木希典の伝記。その生涯と評価について。

乃木希典について出典を明らかにしつつ書いています。

乃木希典の伝記:「乃木希典伝(全)

乃木希典の評価などに関する主な記事の一覧:「『乃木希典入門』について

乃木希典伝(5)―連隊旗喪失―

  1. 西南戦争――連隊旗喪失――
    1. 連隊旗喪失
    2. 死地を求める希典

西南戦争――連隊旗喪失――

連隊旗喪失

明治10年(1877年),西南戦争が勃発しました。

希典は,同年2月19日,第14連隊を率いて熊本城を救援すべく,まず久留米に入ります。
そして,熊本城へ向かい,明治10年2月22日,熊本城の北方にある植木(後の熊本市植木町)付近に達しました。

しかし,西郷軍が熊本城を既に包囲していたので,第14連隊は熊本城へ入城できず,植木において西郷軍との戦闘に入ることとなりました。

このとき,希典率いる第14連隊の将兵は200名ほどに過ぎませんでした。
強行軍のため,脱落者が出ていたのです。

対する西郷軍は,第14連隊に倍する400名ほどでした*1

乃木率いる第14連隊は,数に劣るものの善戦し,3時間ほど持ちこたえましたが,午後9時ころ,退却を余儀なくされました。
この退却の際,連隊旗を管理していた河原林少尉が討たれ,連隊旗を西郷軍に奪われるという「事件」が起こります*2

このことは,後の希典(あるいは日本陸軍全体)にとって,重大な問題となります。

さて,この時期,九州にいた官軍は,熊本城において包囲されていた熊本鎮台兵と,希典率いる第14連隊だけでした。
第14連隊は,後詰めの官軍主力が到着するまで,九州で孤軍奮闘していたのです。

第14連隊は,植木での戦闘から数日しか経っていない明治10年2月23日,木葉において西郷軍との戦闘に入りましたが,ここでも数で劣る第14連隊は,苦戦の末,南関まで退却しました。

第14連隊は,同月25日にも西郷軍と戦い,ここでは勝利を収めます。

このようにして,第14連隊は,官軍主力の到着まで戦線を支えました*3

死地を求める希典

希典は,官軍の実質的な総指揮官であった山縣有朋に対し,明治10年4月17日付けで,連隊旗喪失に関する処分を求める待罪書を送付しました。
これに対し,山縣は,希典の「罪」を不問に付す旨の指令書を返信しました*4

しかし,希典は納得せず,自害を図りました。
教導隊以来の付き合いである児玉源太郎は,自害しようとする希典から軍刀を奪い取って説得し,自害を思いとどまらせたといわれます*5

その後,希典は,重傷を負って歩行が困難になっても「畚もっこ」に乗って指揮を執り,野戦病院に入院しても脱走して戦地に赴こうとしました。
希典は,このときの負傷によって,左足がやや不自由となりました*6

明治10年(1877年)4月22日,希典は中佐に昇進し,熊本鎮台の参謀となり,前線を離れました。
希典が前線指揮官の職から外れたのは,死地を求めるような希典の行動を耳にした明治天皇が指示したためともいわれています*7

豹変」に続く。
(1)から(13)まで通読したい場合には,「乃木希典伝(全)」へ。

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参考文献

  1. 大濱徹也『乃木希典』(講談社講談社学術文庫>,2010年)
  2. 岡田幹彦『乃木希典――高貴なる明治』(展転社,2001年)
  3. 桑原嶽『名将 乃木希典――司馬遼太郎の誤りを正す(第5版)』(中央乃木会,2005年)
  4. 桑原嶽『乃木希典日露戦争の真実 司馬遼太郎の誤りを正す』(PHP研究所<PHP新書>,2016年)
  5. 小堀桂一郎『乃木将軍の御生涯とその精神――東京乃木神社御祭神九十年祭記念講演録』(国書刊行会,2003年)
  6. 佐々木英昭乃木希典――予は諸君の子弟を殺したり――』(ミネルヴァ書房,2005年)
  7. 司馬遼太郎坂の上の雲(4)(新装版)』(文藝春秋<文春文庫>,1999年a)
  8. 司馬遼太郎坂の上の雲(5)(新装版)』(文藝春秋<文春文庫>,1999年b)
  9. 司馬遼太郎『殉死(新装版)』(文藝春秋<文春文庫>,2009年)
  10. 戸川幸夫『人間 乃木希典』(学陽書房,2000年)
  11. 徳見光三『長府藩報国隊史』(長門地方資料研究所,1966年)
  12. 中西輝政乃木希典――日本人への警醒』(国書刊行会,2010年)
  13. 乃木神社・中央乃木會監修『いのち燃ゆ――乃木大将の生涯』(近代出版社,2009年)
  14. 半藤一利ほか『歴代陸軍大将全覧 明治篇』(中央公論新社中公新書ラクレ>,2009年)
  15. 福田和也乃木希典』(文藝春秋<文春文庫>,2007年)
  16. 長南政義『新資料による日露戦争陸戦史~覆される通説~』(並木書房,2015年)
  17. 別宮暖朗『旅順攻防戦の真実――乃木司令部は無能ではなかった』(PHP研究所<PHP文庫>,2006年)
  18. 別宮暖朗日露戦争陸戦の研究』(筑摩書房<ちくま文庫>,2011年)
  19. 松下芳男『乃木希典人物叢書 新装版)』(吉川弘文館,1985年)
  20. 柳生悦子『史話 まぼろしの陸軍兵学寮』(六興出版,1983年)
  21. 学習研究社編集『日露戦争――陸海軍,進撃と苦闘の五百日(歴史群像シリーズ24)』(学習研究社,1991年)

*1:岡田[2001]31頁以下

*2:大濱[2010]80頁以下,福田[2007]79頁以下,佐々木[2005]122頁以下

*3:岡田[2001]34頁

*4:大濱[2010]84頁

*5:岡田[2001]38頁以下,佐々木[2005]119頁以下

*6:佐々木[2005]119頁以下,27頁以下

*7:中西[2010]18頁以下