拳骨拓史『乃木希典-武士道を体現した明治の英雄 エピソードで伝える偉人伝 』
本書は、子供でも読みやすい総ルビのエピソード集です。乃木希典の高潔な人格と親しみやすさを伝えるものが多く取り上げられています。
軍旗喪失、水師営の会見及び殉死といった有名なエピソードが取り上げられているのはもちろんですが、
- 張学良の乃木に対する敬意(4頁)
- 乃木が率いる日本軍によって受けた恩に報いた中国人・王宝停(5頁)
といった外国人、特に日本の帝国主義の被害者である中国人からも賛辞を惜しまれなかった乃木の姿が描かれています。
また、相手(敵国)に対する敬意と自分(自国)の増長を戒めるエピソードが多く、戦前戦後、そして現代にも跳梁跋扈する単純短慮な国粋主義者(いわゆるネトウヨを含む。)とは一線を画す愛国者・乃木の姿が浮かび上がります。
例えば、乃木は、日露戦争の祝勝会で以下のように述べました(53頁)。
忘れてはならないのは、敵が大不幸をみたことである。わが戦勝を祝うと同時に、またわれわれは敵の苦境にあることを忘れないようにしたい。彼らは強いて不義の戦をさせられて死についた。立派な敵であることを認めてやらなければならない。
また、乃木は、学習院の生徒から「個人の自賛は見苦しいですが、国家の自賛も同じではないでしょうか?」と問われ、以下のように答えました(63頁)。
うむ、自賛はうぬぼれじゃよ。自賛と自信はハッキリと区別せねばならぬ。
己を磨くことで、結果としての勝利を得てきた乃木。
徹頭徹尾成功ばかりではなく、自分の欠点や不幸に苦しみながらも生き抜いた乃木。
そうした姿にあこがれる私としては、幼少期に泣き虫といじめられたエピソードが抜かれている(むしろ「泣き虫ではなかった」とされている)点にはやや不満をおぼえるところです。
しかし、子供にも読める乃木希典の本として、本書は現代に唯一無二*1といえましょう。
乃木希典の本にありがちな、司馬史観への批判もほぼないこともまた、本書のよさであり、自己を高めることを本文とした乃木希典の生き方にも通じましょう。